日記(3)


 ゆっくりと机の間を通り抜け鏡を覗いた。眩暈が少しずつ薄らぐにつれて鏡の中の顔が浮かび上がってきた。“あ”と言おうとして言葉を飲み込んだ。額の傷は大きく口を開けている。みるみるうちに血が盛り上がり、今にも、どっと溢れそうだ。静子は鏡に両手をついて、かろうじて倒れるのを支えていたが、ずるずると床にしゃがみ込んでいった。
  やがて雷雨が止み、濡れたグランドが輝き始めていた。静子は全身の力を指先に注ぎ身を起こそうとしたが難なく身を起こすことが出来た。急いで鏡に映る自分の顔を覗いた。額の傷はかき消すようになくなっていた。
 しかし、静子の周りには不思議なことが起こっていた。着ている物は、セーラー服の代わりにワンピースだった。髪の毛も、あの長い髪の毛はそこにはなかったし、顔かたちも少し変わったように感じた。誰かが呼んでいる。
「静子さん、狡いわよ。掃除サボっちゃ、さっきから、自分の顔ばかりみていて。でも、羨ましいなーあなたは、とても美しいんだもの」
 私に話しかけているのは誰だろう。静子は問うつもりで
「え!あなたは………」
 と言った。