日記(6)

 急いで見た日付は昭和三十七年八月七日と記されてあった。“落ち着け”と言い聞かせた。今年は昭和三十年のはずだ。三十七年とすれば、あの友は未来の友となる。そんなことなどあり得ない。あり得るはずがない、“落ち着け”と言って目を閉じかけた。そうだ家に帰るのだ。家に帰ればきっと解るはずだ。母に会えば何が起こったのかきっとつかめるはずだ。早く帰ろう”新聞を丸めると手提げの中に入れ小田急線の改札口へ向かった。

  静子は発車間際の電車に乗り込んだ。電車は静子の意思に逆らうようにゆっくりと動き始めた。胸の鼓動は静まらなかったが落ち着きを取り戻しつつあった。下北沢、成城学園前………駅の名前は変わりなかったが、様子が変わっいる駅舎を数カ所確認した。
 登戸駅に着いた。静子は定期券を見ると、昭和三七年七月八日から八月七日までとしてあった。今日までなのだ。名前は”名前は間違いなく自分の名前だ。静子は一つ一つ自分に言い聞かせた。“歳は”歳は二十三歳。そうだった。静子は二十三歳になっていた。あのときから七年経ったことになる。定期券には新宿から登戸経由で津田山までとなっているから家は元の所にあるはずだ。