日記(5)

友と話していると、今日は洋裁学校の授業が終わったら一緒に伊勢丹に行くことになつていたようだ。友は行けなくなったらしく、頻りに謝った。静子は友が行けなくなったことを幸いに思った。
  「ねえ、今日は何日かしら」
静子は、何気なく言うのに苦労した。友に心配かけたくなかったからだ。だがうまく言えるはずがなかった。
  「どうしたの。今日は八月七日よ。」
  「そうよね」
  「あなた、さっきから、きょろきょろしているけれど、誰か、探しているの」
  「エ?ううん」
 “八月七日。日付には変わりはない”と思った。落ち着くのだと自分に言い聞かせた。 “そうだ、新聞を買おう、新聞だ!”
  「あの、チョット新聞買ってくるわ」
  「そう………じあ、先に帰る、気をつけてよ、今日はどうかしているから」
  「エエ、ありがとう」
  駅前はこの時間でも人通りは多くせわしく歩いていた。やっと新聞を売っている所を見つけて駆け寄った。
 「おばさん、新聞」
 「まだ夕刊きてないよ」
  「朝刊の残りでいいの」
 「なら、これ」
  と言ってくれたのは朝日新聞だった。