日記(4)

日記(4)
 「だめよ、私なんか。あなたは美しいわ。私はあなたが羨ましい。あの赤いガーベラのようだわ」 
 と、すぐにその人は言った。静子は“あなたの名前は?”と聞きたかったのだ。まだ会ったことのない人だった。
  「さあ??」速く掃除をしましょう。………やあね、洋裁学校の掃除って。高校の時のが良かったわ。親切な男子がいて、みんなやってくれたのに。」
  「………」
 静子は教室を見渡して、なるほどと思った。左右にミシンがたくさん寄せられ、真正面には教壇があった。時計を見た。午後四時十分を指していた。暫く無言で立っていた。窓からは晴れ渡った空が見えた。
  「さあ、掃除が終わったわ、帰りましょう……あなた、今日はどうかしてるわよ。目ばっかりきょろきょろして。何かあったの」
 答えようがない。何処へ来てしまったのだろう。構内には、B服装学院と書いてあった。 静子は友であろうその人と校外へ出た。“おや”と思った。“なぜ速く気がつかなかったのだろう。ここは新宿だ。新宿駅だ。”静子は大きな声をだしそうになった。ここは東京なのだ。新宿なのだ。“でもこんな証券会社、ここにあったかしら。”